藤岡拓太郎 さく・え
「たぷの里」
(ナナロク社)
定価:1200円+税
B5変形サイズ/上製/42ページ/オールカラー
装丁:藤岡拓太郎
発売:2019年7月21日
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累計4万7000部
(14刷/2024年4月時点)
たぷの里のこと①
藤岡さんはいつか児童書を絵付きで書かれたらと思ってます。
絵本なら、いまいちばん作りたいんですよ。例えば「たぷの里」という力士が・・・
というような会話が、LINEの履歴に残っている。相手はナナロク社の村井さん。これは今から2年前、1ページギャグ漫画をまとめた『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』(ナナロク社)を出版した頃のこと。しかし、特にそれからラフを作ったりすることもなく、2017年は暮れていった。
※ラフ・・・全体の流れを大まかな絵で描いたもの。漫画でいえばネームのこと。
2018年5月、祖母の葬式で向かった愛媛にて。ちょっと前まで小学生だったやんという従弟に娘が生まれていて、その赤ん坊を抱っこした時に、あ、絵本つくろう、と思った。
絵本の世界というのはほんとに名作だらけで、お前がこれ以上何かを作る必要があるのですかという気分が続いていたのだが、赤ん坊はすごい。そんなことはどうでもいいから描いてみたらええんや、と全身で教えてくれる。この赤子がもう少し大きくなった頃に、今とは違う意味で這いつくばって笑い転げるような絵本を、とにかく作り始めてみようと思った。
目指したのは、ただただ笑える絵本。子供も笑えば、親のほうもまともに読み聞かせができないぐらい笑ってしまう絵本。絵本かぁ、と小バカにしながらなんとなく手に取った中坊も吹き出してしまう絵本。
アイデアをぐつぐつ煮込んでいって、再び年を越し、ことしの1月にラフの第1稿ができる。粘る村井さんに何度も見せては描き直し、4月にようやく原稿が完成。いい絵本ができた。自分で言ってしまうが、めちゃんこいい絵本ができた。
(2019年5月 藤岡拓太郎)
記憶の中にあるいちばん古い絵本『かばくん』(福音館書店)
たぷの里のこと②
長新太という人がいる。
ちょうしんたと読みます。
『たぷの里』を、絵本に興味のない人も手に取って笑ってくれたらとてもうれしい。そして「絵本っておもしろいな」と他の作品にも手を伸ばしてくれたらさらにうれしい。
実は自分も、幼少の頃をのぞけば絵本を読むようになったのはここ数年のこと。あるとき書店で、絵本作家の長新太を特集した雑誌の表紙に一目惚れをして、中をめくってみると一瞬でその線と色のとりこになった。
長新太という名前は知っていたし絵本もなんとなく読んだ記憶はあるけど、こんなにかっこいい絵を描く人だったのか!なんて自由な色だ。この、表紙に使われている絵本のタイトルはなんていうんだろう・・・・・・『ゴムあたまポンたろう』?最高じゃないか!こいつゴムあたまポンたろうっていうの?ゴムあたまポンたろうて!
『ゴムあたまポンたろう』、
『キャベツくん』(キャベツくんて)、
『ムニャムニャゆきのバス』、
『つきよ』、
『ごろごろ にゃーん』、
『アブアアとアブブブ』、
『ちへいせんのみえるところ』・・・。
長さんの絵本に夢中になった。
※リンク付きのタイトルは全ページ試し読みあり
長さんの他にも色んな絵本を読んでみて、絵本という表現の面白さと自由さに驚いた。
『まばたき』(作:穂村弘/絵:酒井駒子)、
『オオカミがとぶひ』(作・絵:ミロコマチコ)、
『さよならペンギン』(作:糸井重里/絵:湯村輝彦)、
『ケチャップマン』(作・絵:鈴木のりたけ)、
『でっこりぼっこり』(作・絵:高畠那生)、
『ジャリおじさん』(作・絵:大竹伸朗)、
『おやすみなさいおつきさま』(作:マーガレット・ワイズ・ブラウン/絵:クレメント・ハード/訳:瀬田貞二)、
『よあけ』(作・絵:ユリー・シュルヴィッツ/訳:瀬田貞二)・・・。
※リンク付きのタイトルは全ページ試し読みあり
2017年に出版した1ページ漫画集『夏がとまらない』は、たくさんの本屋さんが面白がってくれて、本に込めた熱をさらに高めて、お客さんへと届けてくださった。残念ながら、この2年間のあいだに、そうした書店のいくつかがなくなってしまった。
『たぷの里』を作っている途中に読んだ『絵本づくりトレーニング』(長谷川集平/筑摩書房)という本の中に、絵本とマンガの違いについて話しているくだりがあって、そこにこんな言葉があった。
"マンガというのは絵のことで、絵本というのは本のこと"
つまり、マンガというのは雑誌の中にも新聞の隅っこにも、黒板にも、どんなところにだって入り込めるが、絵本はそうはいかない、絵本というのは形のことをいうのだと。
絵本づくりをしながらなんとなく感じていたことを、ずばり言葉にされた気がして唸ってしまった。上で紹介した『まばたき』とか本当にすごくて、WEBで全ページ試し読みができるので今すぐにでも読んでみてほしいのだが、ぜひ初見は本屋さんに行って、自らの手で持つ本を見て驚いてほしい。『まばたき』も『そよそよとかぜがふいている』も『よあけ』も、初めて読んだ時は変な声や笑い声やため息がもれた。
映画はできるだけ大きい画面で観た方がいいというのと同じくらい、いやそれ以上に、紙の本を持ってめくって読むということは、絵本にとってはどうやらとても大事なことのようです。自分も初めて絵本づくりをしながら、改めてそのことを感じた。
まだ見ぬ名作を求めて、これからもまた本屋で子供に交じって絵本を眺めたい。この2年間のあいだに、なくなってしまった本屋さんもあれば、営業を続けている本屋さんもあって、新しく生まれた本屋さんもある。『たぷの里』は、大げさでなく対象年齢0才~100才のつもりで作ったので、色んな人が発売日に本屋さんに走り、手に取ってくれたらいいなと思う。絵本コーナーで笑いすぎて腰くだけになっている男児情報など得られましたら、Twitterで教えてください。書店員の皆さま、今回も面白がっていただけたらうれしいです。サイン本つくりまくります。
『たぷの里』は7月刊行予定です。これを書いている時点ではまだ本はでていませんが、長さんの『ちへいせんのみえるところ』を読んだ人ならわかる、あの言葉でこの文章を締めたいと思います。
でました。
(2019年5月 藤岡拓太郎)
たぷの里のこと③
首から下しか映っていないお相撲さんの写真を見せられても、それがどの力士かだいたい当てられるぐらいには、相撲が好きだ。
人生で相撲を観たことなどトータルで5分もなかったのに、2014年の夏の、ある暇な夕方にテレビの大相撲中継をなんとなく目にして以来、毎場所録画してまで観るようになった。その時は特に話題性のある力士がいたわけでもない。怪物と呼ばれた「逸ノ城(いちのじょう)」が幕内に登場したのは、その翌場所のことだ。
大相撲を最初に観た時は、「取組の始まり方」がとにかく新鮮で面白かった。何しろそれまで、大相撲というのも公園のおっさんが仕切る相撲みたいに、「はっけよい、のこった」の掛け声で取組がスタートするものと思っていたのだ。大相撲というのは、行司は「はっけよい、のこった」とは言わない。土俵上のふたりの力士が呼吸を合わせて立ち、取組が始まる。そのあとに行司が「のこったのこった」と言う。これを読んで、えっそうなん!?と思っている人もいると思うが、自分も最初は「試合がこんな始まり方するスポーツある?」と思って、取組が始まるたびに笑っていた。(なんで笑うねん)
たぷの里は2016年に生まれた。ある朝起きた時に、少年の頭に腹をのせている力士が頭に浮かんで、布団から飛び出してそのイメージをささっと紙に描きとめた。そのあと綺麗に描き直して、一枚のイラストとしてSNSに投稿した。
たぷの里と少年 pic.twitter.com/889y4lpKxn
— 藤岡拓太郎 (@f_takutaro) 2016年6月21日
ちなみに「たぷの里」という名前は、当時大関だった「稀勢の里(きせのさと)」が好きだったから、というのもあるが、「たぷ」に続く名前として「の里」が一番しっくりきたから。たぷ錦、たぷの山、たぷの海、たぷノ城、たぷの富士・・・。色々書きだしてみたが、「たぷの里」が一番よいと思った。
たぷの里。イラストだけで終わらせるのはもったいないな。でも漫画にできそうなキャラクターでもないし・・・。悩んでいるそんな頃、絵本をよく読むようになった。あっ!たぷの里、絵本にできるんじゃないか? このイラストを見た時のおかしみを持続させられるのは絵本しかない!
そんなわけで話は「たぷの里のこと①」につながる。
そういえばこないだ、正面解説が舞の海さんで、向正面(客席側)の解説も舞の海さんという夢をみました。
(2019年5月 藤岡拓太郎)
#たぷの里